私には好きな人がいる。 1年先輩で、手芸部の部長をしている佐藤先輩。 私は彼がいたから、手芸部に入部した。 つまり、部活勧誘の時に見かけた佐藤先輩に一目惚れをしてしまったということ。 それから1年が過ぎ。 佐藤先輩は3年生に私は2年生になった。 けれど、佐藤先輩は私の気持ちは知らない。 だって手芸部で一緒に部活動をしていれば、佐藤先輩が誰を好きなのかは、すぐに分かったから――

「ほーら、田中ちゃん、手が止まってるわよ」 顧問の木村先生が私に声をかけてくる。 「あっ、ちょっとぼーっとしちゃって……」 「何だ、また勉強のしすぎじゃないのか?」

私と木村先生の間に佐藤先輩が入ってくる。 佐藤先輩は、私が木村先生と話をしていると、いつもこう。 それは佐藤先輩が私に興味があるんじゃなくて、私が会話にわりこまれるとあまりしゃべらなくなるのを知っているから。 佐藤先輩がしゃべりたいのは、木村先生なんだから。 「あら、そうなの? でも勉強もほどほどにしなくちゃダメよ」 「生徒に対して、それはどうなんですか、木村先生」 「いーじゃない。だって私は、あなたたちの担任でもないんだし。今は部活中よ。楽しまなくっちゃ」 「本当に木村先生は先生らしくなくて、適当ですね」 「あら、酷い言い方ね」 佐藤先輩が、そんなに気安く憎まれ口を叩くのも木村先生だけ。 「……私、ちょっとお手洗いに行ってきますね」 「え、ちょっと、田中ちゃん?」 二人の会話を聞いているのが辛くなって、私はその場を離れた。

(部活中に部室を飛び出しちゃうなんて……。脈がないのはわかっているのに、前よりも好きな人が好きな人の前で楽しそうにしている姿を見るのが、絶えられなくなってきてるな……どうしよう) 「たーなーかーちゃん!」 「わっ!?」 急に後ろから両肩を掴まれて、思わず大きな声を上げてしまう。

振り向くと木村先生がいた。 「木村先生! どうして……」 「だって、辛そうな顔をしている生徒を見たら、放っておけないでしょ」 「あ……ごめんなさい。変な態度を取ってしまって」 「なーに言っているの。いいのよ。それより、ちょっと中庭で話さない?」 「はい……」 私は先生の後ろについて、一緒に中庭に行くことにした。

「それでね、実は私、大学の時の先輩のことが好きなんだけど、親が早く結婚しろってうるさくって、次の日曜日にお見合いをさせられちゃうのよね~。私まだ、24歳なんだけど! どう思う?」 「どう思うって……その」 木村先生が急に何でそんな話をしてくるのかが、わからず混乱してしまう。 でも木村先生にも好きな人がいるというのは、少し嬉しかった。 「……ふふ。ごめんね、急にこんな話」 「そ、そうですよ! だって私、まだ中学生ですよ!」 「うーん、でも、田中ちゃんは恋する乙女でしょ?」 「!?」 突然の振りに私は真っ赤になってしまう。 木村先生は全てお見通しのようだ。 「え! いや、えーっと、その……」 「あはは。もう、田中ちゃんってば可愛い!」

「やっと見つけた! 何しているんですか、こんなところで!」 そこに息を切らした佐藤先輩がやってきた。 「佐藤先輩!?」 「えー、ちょっと、田中ちゃんに私の恋の相談をしていたの。ねー、田中ちゃん」 「えっと、その……」 「はぁ!? 純粋な田中さんを穢さないで下さい!」 佐藤先輩は私の腕を掴んで、私を自分の傍に寄せる。 (え? え? 何が起きているの!?) 「もー田中ちゃんガードが硬いわねぇ」 「当たり前です。俺の大事な後輩なんで」 (えー!?) 私は何が起きているのかが分からなくなる。 (佐藤先輩が、私のことを大事な後輩って! ……あ、いやでも、後輩なら普通? え、わかんないよ。そんなこと言われたの初めてだし) 「はいはい。じゃあ、お邪魔虫はここで退散するわ。田中ちゃんのこと、よろしくねー」 「そんなの当然です」 木村先輩はウインクをして立ち去った。

「えっと、あの佐藤先輩……」 「あー……大丈夫だった? 顧問に変なこと、吹き込まれていない?」 「それは、はい。あの、でも佐藤先輩にとっては悪い話を聞いてしまいました」 「俺にとって悪い話? え? 何の話?」 「あの、木村先生に好きな人がいるって……」 「……はい?」 「ショックですよね……」 「いや、ちょっと待って。……もしかして田中さん、俺が木村先生のことを好きだと思ってる?」 「……はい」 「……うそだろ」 佐藤先輩は、深くため息をついた。 「これは秘密にしておいて欲しいんだけど、木村先生は歳の離れた従姉なんだ」 「え! あ、だから……」 「いや、だから……じゃなくって! 木村先生と気安く話していたのは、そういうことってだけで、あの人に恋愛感情なんて微塵もないから!」 「え? でも、私と木村先生が話していると、いつも会話に混ざってきていましたよね?」 「いや……それは……」 「木村先生が好きだからじゃないんですか?」 「それは違う。好きなのは、そっちじゃ……あー! もう! この流れで言うのは、なんか癪に障る!」 佐藤先輩が急に怒り出す。 「ほら、部室に戻るよ。その手の話は追々」 「追々?」 「いーから。ほら、行くよ!」 私の頭の中は⁇がいっぱいだったけど、いつも優しい佐藤先輩がやっぱり好きだなと思った。 それだけは、確かだ。 そして今日も私は片想いをこじらせていく―― END