新垣警部補と町の中を一緒に歩き回り、町の人から色々話を聞く。 町の人たちはみんな優しくて、こちらが聞いたことに対して誰もが親切に答えてくれた。 けど、普段は一人で気ままに行動をしているので、新垣警部補が一緒にいると気が抜けないため窮屈だ。それが一週間も続いた。 「はい、もしもし」 新垣警部補のスマホが着信音を鳴らす。どうやら捜査本部に呼び出されたらしい。 新垣警部補は俺にも同行を求めたが、さすがにそれはおかしいだろうということで断った。 俺はようやく一人の時間を手に入れたのだ。 「自由って素晴らしい!」 俺は深呼吸をする。 「そういえば、結局一度も吊り橋の方は見ていないんだよな。ちょっと行ってみるか」 そう思い立ち、事件現場に向かった。

吊り橋に着くと、見張りの刑事が一人立たされているだけだった。 おそらく階級は低いのだろうが、見たことのない顔だったので、うちの所轄の刑事ではなさそうだ。 俺は軽く挨拶をしてから、吊り橋に残されているという争った形跡を探す。 「このこすれた後のことを言っているのか? 確かに新しそうな跡ではあるけど、事件が起きた時に付いたものとは限らないんじゃ? それとも他にも――」 「ここにいいたのか、横槍巡査」

何で俺の居場所が分かったのか、新垣警部補が現れる。 「やはり交番刑事であっても、捜査をしたかったのね」 と、これまでとは少し違い、上から目線で嫌味を言われた。 俺はただ、この町の平和を乱したやつを捕まえるというから手伝っていただけなのに、二人の間に明確な線があると言われたようで腹が立つ。 「そうですか。じゃあ手伝いは辞めます。あなたとは一緒にいられないので」 俺は彼女に背を向け歩き出す。 「え、あ、ちょ、ちょっと……!」 新垣警部補は慌てて俺を追いかけて、服の後ろを掴んだ。

「ごめんなさい。嫌味なことを言って。さっき電話で呼び出されて、散々『これだから女は』と言われて……。むしゃくしゃしてたからつい、あなたに当たってしまったの。だから、見捨てないで」 新垣警部補は泣きだしそうな声でそう言う。 そんな風に言われてしまうと、無下にもできない。 せっかく断る理由ができたと思ったのに。 というか、こんなに新垣警部補を追い詰めるなんて、誰だか知らないがよほどひどい言葉を放ったのだろう。 キャリア組であっても、苦労はするということか。 「はぁ……。わかりましたよ。手伝いますよ」 「ありがとう!」 「とりあえず、昼の時間なのでランチにしませんか」 「えぇ、いいわね。今日は何処に行くの?」

その後、気のせいか、新垣警部補は前よりも近い距離で話すようになった。 ランチ中も、新垣警部補は自分のプライベートなことまで話してくる。 自分の情けない姿を俺に見られたと思っているからだろうか。 ランチ後は、再び色々と聞き込みをしたが、結局不審人物については分からないままだった。

そして夕方の捜査会議―― 「この町で捜査をしていたが実りがない。そこで一旦、本部に戻る。この地域に関しては所轄に任せ、我々は他の線で捜査をする」 という刑事部長の一言で、あれだけたくさんいた刑事はみな、この町を出ていった。 新垣警部補との合同捜査も、これで終わったということだ。 彼女は帰り際、名残惜しそうにこちらを見ていたが、彼女の居場所はこの町ではない。 そして本部の一課で殺人事件を日々捜査しているキャリアの新垣警部補とノンキャリの巡査では、この先は道が繋がることはないだろう。 この数日間がイレギュラーだったということだ。 何せこの町は、ずっと平和だったのだから。

俺はようやくいつもの交番に戻れて、ホッとしていた。 上司は巡回中。今は交番に一人だ。 この交番のデスクで日報を書いている時間が、俺はたまらなく好きだ。 書くことは、小学生の夏休みの日記と同じように、「今日は晴れ、何事も起きなかった。以上」だけでいいのだから。 明日も明後日も、ずっとこうだったらいいのにと思ったが、本部の刑事が帰っていっても、この町で殺人事件が起きたという事実は変わらない。 そして、まだ犯人が捕まっていないということも。 「そういえば不審者というか、見知らぬ人がいたって証言したのって、結局伯爵亭の主人だけだったな」 その後、誰に聞いても、見知らぬ人を見たという証言を得ることは出来なかった。 というよりも、伯爵亭の主人も後になって、やっぱり気のせいだったかもと言っていたと、他の刑事が捜査会議で言っていた。 それって不自然なんじゃないか……? 俺は今さらながら、連続殺人犯が殺した人物を検索する。 これまでは、自分が捜査をするという前向きな気持ちがなかったので、不審者探しをすればいいとだけ思っていたからだ。 殺害された男が殺したのは、全部で5人。 10代女性1人、20代女性2人、30代女性2人。 そのうち学生は2人だ。 みな独身で、年代は違うものの雰囲気が似ている気がした。 連続殺人犯の好きな顔というものなのかもしれない。 「ん? あれ?」 殺された20代後半の女性の写真を見ていると、どこかで見たことがある気がした。 「あ! この子、以前伯爵亭でバイトをしていた――」 +++ガンッ+++ 俺は後ろから硬い何かで殴られ、気を失った――