東京にある自然豊かな、とある町。いつもはただただ平和な時間が流れていたが、ある日の朝、その日常は壊された。 つり橋の下の川に町民ではない人物……男性の死体が転がっていたからだ。 吊り橋には、やや争った形跡があったため、事故や自殺ではなく他殺の疑いが濃厚だということで、本部の警察も呼ばれることになった――

そして俺は、この町で交番勤務をしている横槍横吉、30歳独身。 残念ながらモテたことのない人生を過ごしているが、それもこれも全ては両親が適当な名前を付けたせいだと思っている。 そうでも思っていないと、やってられないからというのもあるが。 とはいえ平成生まれで、この名前。 普通にあり得ない。 俺に子どもが出来たら、もっとまともな名前を付けてあげたいと思うが、そんな予定は皆目やってこないところが、寂しい限りだ。 この町の交番勤務になって、今年で3年目。 毎日のランチを楽しみに過ごしている平和ボケしたお巡りさんだったのに、それが今日崩れた。

「はぁ……」 現場に行くと、すでにパトカーで溢れていた。この町に来てから、初めてみる光景だ。 ただのお巡りさんである俺の役目は、上司に「とりあえず状況だけ見てこい」と言われたので、状況を見てくること。 ただ、刑事課所属でもなく、ただの交番勤務のお巡りさんなので規制線の前止まりだ。 つまり一般市民と同じところまでしか、見ることができないということ。 そこに一台のパトカーが止まり、中から綺麗な女性が出てきた。

「新垣警部補、お疲れ様です!」 「現場は?」 「ご案内いたします」 規制線の中にいる警官はそう言うと、彼女を中に入れた。 俺と同じ歳ぐらいに見えたが、この歳で警部補ということはキャリア組だろう。俺はまだ巡査だし。 「さて、一応現場の確認もできたし帰るか」

確認が出来たらすべて終わり、と思ったら、捜査本部がこの町の警察署に設置され、人手不足ということで俺も捜査会議になぜか呼ばれてしまった。 「被害者は、現在都内で起きている連続殺人犯の犯人の可能性が高い。また吊り橋には揉めた跡があり、被害者の関係者が殺した可能性もある。まずは被害者の関係者から洗い出してくれ」 刑事部長が、声を張ってそう言うが、俺はこんな平和な場所で、そんなことしないでくれよとしか思えなかった。 「横槍巡査! 君は町の人の聞き込みを担当してくれ」 「……わかりました」 この町は、人口は多くないが、土地は広い。だからこそ、町のお巡りさんである俺にも応援要請が来たのだろう。 それに身内意識が強いため、聞き込みもよそから来た人間より、町の住人の方が話してくれるという可能性もある。 「横槍巡査!」

しぶしぶ聞き込みに行くかと思ったら、なんと現場で見かけた新垣警部補が声をかけてきた。 「新垣警部補。どうかされましたか?」 「横槍巡査は、この町に赴任して長く、町の人たちとも仲がいいと聞いた。私は、土地勘がないので、町のことを教えてくれないか?」 俺は時計を見る。時刻は12時を少し過ぎたところだった。 「あー、じゃあ一緒にランチでもいかがですか? そこの日替わりが美味しいんで」 「わかった。案内してくれ」 こうして、なぜか新垣警部補とランチをすることになった。

伯爵亭。 いわゆる昔ながらの洋食屋さんで、オムライスが絶品の店だ。 だが、日替わり定食は店主の気まぐれ料理なので洋食になるとは限らないところが、俺は気に入っている。 「いらっしゃい! おや横槍君。今日は彼女連れか? 勤務中だろうに、やるね~」 「違う違う、こちらは本部の刑事さん。俺なんかよりも、もっと偉い人」 「初めまして、新垣景といいます」 「警察にしては、ぺっぴんさんだね」 「おっちゃん、それセクハラだからなー」 「おっと、これは失礼。今の時代はホント、生きづらいねぇ」 店主はそう言って厨房に入る。

「店主と仲がいいんだな」 「仲がいいというか、遠慮がないというか」 世間話を交えながら、町のことを話す。そうしていると、店主が料理を持ってきた。 「そうだ、店主。昨日、不審な人物は見かけなかった?」 「昨日? あー……そういえば、昨日は知らない人が来てねー。珍しいなと思ってたんだよ。こんな田舎だからね」 「それ、本当ですか!?」 新垣警部補がくいつく。 だからだろうか、店主は少し狼狽えた様子を見せる。 「新垣警部補、落ち着いてください。ただ、見知らぬ人が食事に来たというだけの話です」 「あ、あぁ、そうか。すまん」 「おっちゃんも、驚かせて悪いな」 「いや、いいよ。そういえば、何かの捜査なのかい?」 「ほら、今日の朝、川で人が死んでただろ。あれだよ」 「あぁ、そうだったな。こんな田舎で珍しい」 「だよなー。で、一応聞いておくけど、昨日の知らない客は男?女?」 「んー、40代ぐらいの男性だったかな」 「そっか、ありがとう」

それから俺たちは、ランチを済ませて伯爵亭を出た。 「すまん。よそ者意識が強い町で、声を上げてしまって」 「いやいや、あれぐらい大丈夫ですよ」 「でも、横槍巡査が住人と仲がいいのが分かった。この町で聞き込みをする間だけでいいから、私と一緒に回ってくれないか? その方が、町の人も話をしてくれそうだから」 「え……はい」 警察は縦社会。上の人から言われたことは絶対。 つまり俺には断る権利がないということだ。 はぁ、勘弁してほしい。