「この子のこと、知りませんかー!? 10年前、この公園で行方不明になったミヨちゃんです。見かけた人はいませんかー!!」 私がどんなに声をかけても、ミヨちゃんのことを知っている人は現れなかった。 町の人たちはとても親切で、人探しをしていれば足を止めてくれるし、話を聞いてくれる。 だけど、誰もミヨちゃんの情報だけ「知らない」という。
ミヨちゃんと私……相田摩耶は友だち。 小学4年生の夏休み、この公園でかくれんぼをしていた。私がジャンケンで負けたので、数を数えてからミヨちゃんを探した。 1時間経過。 ミヨちゃんは見つからない。 2時間経過。 私はもう降参だって叫んだけど、ミヨちゃんは出てこない。 3時間経過。 さすがにおかしいと思って、ミヨちゃんの家に行って、ミヨちゃんのお母さんに説明をした。一緒に探したけど、ミヨちゃんは見つからない。 4時間経過。 ミヨちゃんのお母さんが警察に連絡。町の人も警察も一緒に探したけれど、ミヨちゃんは見つからない。 それから10年。 ミヨちゃんはまだ見つかっていない。誘拐なのか、事故なのか、何があったのかもわからないまま10年が過ぎた。 初めはミヨちゃんのご両親と一緒にミヨちゃんを探していたけど、ミヨちゃんのお母さんは精神を病み、入院。 ミヨちゃんのお父さんは、このままでは家族がダメになると判断し、ミヨちゃん一家は5年前に引っ越した。
それからは私1人、大学の授業がない時間帯にここに来てビラを配っている。 「本当だったら、一緒に二十歳のつどいに行ったはずなのに」 私がうつむいていると、目の前に一人の女性が現れた。
20代だろうか? でも、どこか幼さがある。 「ねぇ、一緒にかくれんぼしましょう」 「え?」 その言葉に、私はドキッとした。 けれどすぐに、私が持っているビラに「かくれんぼ中にミヨちゃんがいなくなった」ということを書いていたことを思い出す。 「……ひやかしなら結構です」 「ひやかし? どうしてそう思うの?」 「どうしてって……!」 女性は笑みを浮かべながら私の腕を掴む。 私は腕を振り払おうとしたが、彼女の力は意外と強く、振り払うことができない。 「ねぇ、かくれんぼしましょうよ」 今度はゾッとした。 断ってはいけない。断ることは禁忌に触れる。 そう感じた。 「……わ、わかりました」 「わぁ! やったぁ。じゃあ、最初は私が鬼をするから、上手に隠れてね」 女性は無邪気にそう言うと、一本の木のところに行き、数を数え始めた。 10秒なのか20秒なのかわからないが、私はとりあえず近くの茂みに隠れることにした。
「……はーち、きゅー、じゅう! よーし探すぞー!」 女性が私を探し始める。 何となく見つかってはいけない気がして、息を殺して、なるべく頭を低くしてしゃがむ。 「どこだろうなー。ここかなー? ……違うか。じゃあ、あっちかなー」 そう言って、彼女は私の方へと歩いてくる。 (やばい。見つかる――) そう思った時だった。 後ろから誰かに引っ張られ、不安定な状態でしゃがんでいた私は、後ろに倒れる――
「大丈夫? マヤちゃん」 気が付くと、私の目の前には小学生のミヨちゃんがいた。 「え、あれ!? ミヨちゃん!? えっ本物!?」 私は勢いよく立ち上がり、ミヨちゃんを見下ろす――ことはなく、同じ目線の高さで彼女を見た。 「もう、そんなに驚いてどうしたの?」 「だって、ミヨちゃんが見つからないから……」 「でも、見つかっちゃったね」 そう言われて、何かが頭の中からすっと消えた気がしたけど、何が消えたのかが分からなかった。 「そっか、そうだね! ミヨちゃん、みーっけ!」 「それ言うの、遅いよー」 「でも、ミヨちゃんも隠れる気、なかったでしょー。私の心配してたし」 「それは、だって、マヤちゃんが後ろにコケるから。たんこぶとかできてない?」 「うん。大丈夫。もう痛くないよ!」 「よかった。じゃあ、今度は私が鬼をやるね!」 そう言ってミヨちゃんが走り出そうとしたけど、私はミヨちゃんの腕を掴んで止めた。 「どうしたの?」 「もう、かくれんぼはしたくない」 「そう? じゃあ、私のおうちで遊ぶ?」 「おうち?」 「うん。今日はお母さんがクッキーを焼いてくれるって言ってたから、一緒に食べよー」 「え? でも、お母さんは……」 「私のお母さんのクッキー嫌い?」 ミヨちゃんが悲しそうな顔をする。 「あ! ううん。そんなことないよ! じゃあ、ミヨちゃんのおうちに行こう~」 「うん!」 私はミヨちゃんと手を繋いで、一緒に公園を出た。 (何か忘れてる気がするんだけど……まぁいっか)
―――――――― ―――――― ――― 後日。相田摩耶が失踪したというニュースが流れ、世間を賑やかせている。 だがそれも、数日だけのこと。一週間も過ぎれば新しいニュースが流れ、世間は「相田摩耶」という人物も忘れ去っていく。 けど、それでいいこともある。覚えている方が危険だということもあるのだから。 「相田さんの事件、どうなったんだろうね」 「相田? 誰それ」 「ほらそこの公園で……」 END